松沼 光泰
教育心理学研究 57(4) 454-465 2009年
受け身表現は,日本語では動詞に助動詞「れる・られる」を付けて表すが,英語では「主語+be動詞+過去分詞+by~」の形で表される。ここで注意しなければならないのは「英語の場合,受動文の主語には能動文の目的語がなる」ということである(以下「受動態の前提」)。本研究では,多くの学習者はこの受動態の前提を理解せず,日本語の受け身表現(れる・られる)を単純に「be動詞+過去分詞」で表すことができると不十分な知識を持っているとの仮説を立て検証した。この仮説が支持されたことを受け,学習者の不十分な知識を修正する教授方法を考案し,一般的教授方法と比較することでこの効果を検討した。実験群の授業は「(1)手持ちの知識が不十分なことを意識化させる」,「(2)日本語と英語が構造的に異なる言語であることを意識化させる」,「(3)熟達者思考プロセス提示法を用いて学習内容を提示する」という点で統制群の授業と異なっていた。介入の結果,実験群の成績は統制群を上回った。また,実験群は,統制群に比べ,日本語と英語の違いに注意することや5文型の重要性を認識するようになり,授業で用いた教材を有効であると認知し,授業への興味も高かった。