伊藤 公哉
大阪経大論集 66(4) 149-172 2015年11月
IFRS 第15号のわが国法人税の課税所得計算への影響について, 租税法の立場から考察。具体的には,まず,たな卸資産の販売の収益認識について, わが国の法人税法上の取扱い(原則的な取扱いのみならず割賦販売の会計処理と法人税法上の取扱い等を含む)を確認し, IFRS 第15号の影響について検討を加える。さらに,返品権付販売, 製品保証について, IFRS 第15号の適用により負債の計上あるいは別個の履行義務として会計処理を行った場合, 顧客への商品の引渡時に認識される収益の額は減少し, 結果的に課税が将来に繰延べられることになる(顧客への引渡時に認識する収益の額を減らすことで, 引当金の繰入れと同様に, 実質的に所得の圧縮を図ることができてしまう)。 そこで, この会計処理は法人税率引下げとセットで課税ベースの積極的な拡大を目指してきた (引当金の損金算入を厳しく制限又は廃止した) 政府の税制政策と相反する結果を招来することとなるから,この点については, 政省令により明定することが租税法律主義の観点から相当であると結論づける。