小舘誓治, 高橋竹彦, 東 順三
神戸大学農学部 研究報告 19(1) 46-55 1990年 筆頭著者
1. 兵庫県赤穂郡上郡町金出地の鞍居神社の照葉樹林にある二種の斜面地形(尾根型斜面と直線型斜面)について,植生と土壌の調査を行い,二種の斜面地形の特徴と優占種および種組成との関係について検討を行った。2. これらの斜面地形の特徴を明確にするために,傾斜角度(縦断面,横断面),土壌硬度,0∿5cm土層土壌の含水比,A_0層の厚さ,菌糸層の有無などを調べた。その結果つぎのようなことがわかった。尾根型斜面についての特徴はつぎのとおりである。(1) 縦断面形は緩やかな上昇型,(2) 横断面形は全体的に凸型,(3) 土壌硬度は斜面の上方部から下方部まで比較的硬い,(4) 0∿5cm土層の土壌の含水比は斜面上の位置に伴う変化は認められない,(5) A_0層は斜面の上方部と下方部で厚く,中部で薄い,(6) 菌糸層が比較的斜面下方部にまで認められる。これらのことから,尾根型斜面は乾燥しやすい条件下にあることが推察された。直線型斜面の特徴はつぎのとおりである。(1) 尾根型斜面に比べて傾斜が急,(2) 縦断面形は直線状,(3) 横断面形は直線かやや凹型,(4) 土壌硬度は比較的軟らかい,(5) 0∿5cm土層土壌の含水比は斜面の上方部と下方部とで違いが認められる,(6) A_0層の厚さは斜面の上方部から下方部にかけて減少傾向を示す,(7) 菌糸層は,斜面上方部にのみ認められる。このようなことから,直線型斜面は,尾根型斜面よりも水分条件が良いものと推察された。3. 最上層における優占種は,斜面上方部から中部にかけてはコジイ,斜面下方部ではウラジロガシである。二種の斜面地形について,これらの優占種の交代の様相を相対胸高断面積で比較すると,尾根型斜面では,斜面長90m付近の位置でコジイとウラジロガシの交代が明瞭にみられた。直線型斜面では,ほとんどの位置でコジイが優占していた。4. 尾根型斜面を基準に,出現種を斜面上の出現状態から出現種をつぎのように大きく三つの種群にわけることができた。 : A群;ほぼ斜面全域に出現する種,B群;斜面長0∿100mの範囲に出現し,斜面上方部に偏って出現する種(斜面長100mより下方部でほとんど出現しない種),C群;主に斜面長100mより下方部に偏って出現する種である。直線型斜面における出現状態は,A群のコジイ,ウラジロガシ,アラカシなどの多くは,ほとんど尾根型斜面と同様であるが,斜面のある部分で欠ける種がいくつかみられた。B群のツツジ科の植物などの多くの種は,出現範囲が狭くなったり,頻度が少なくなる傾向がみられた。C群の種のうち,ネズミモチやベニシダなどの種は,尾根型斜面よりもやや出現が斜面上方部まで広くみられた。5. 以上のことより,鞍居神社の照葉樹林の二種の斜面地形における最上層の優占種の交代の傾向や種の出現状態の違いは,斜面地形の特徴による土壌の水分条件の違いと関連があるものと推察された。