竹端 寛
福祉社会学研究 2008(5) 87-103 2008年 査読有り
本稿では,アメリカ合衆国カリフォルニア州で1990年代以後に二回行われた精神保健政策の変容を考察する中で,精神保健政策と地域間格差,政府間関係や特定財源確保に関する課題や論点を考察した.カリフォルニア州では1991年,枯渇した一般財源による精神保健政策を改め,特定財源を確保し,州から郡政府に大幅に権限委譲をする再編政策を実施した.この再編政策によって財源は安定化したものの,「転施設化」「エンタイトルメントの問題」「対象者層と治療へのアクセスの限定」「郡政府間格差」などの構造的問題が生じた.これらの限界や課題を克服するために,同州では2004年に精神保健サービス法を施行した.この二度の政策変遷の分析を通じ, 1.再編当初から指摘されていた課題(リスク)がその後10年間の施策で「実証」されたこと, 2.またそれら諸課題を克服するために行われた州のパイロット事業を実践するために,精神保健サービス法において実質的なサービスのエンタイトルメント化を計る必要があったことがわかった.この分析からは,わが国の精神保健福祉政策の今後の変容について議論する上で有益なヒントを得ることが出来る.