信迫 悟志, 大住 倫弘, 松尾 篤, 古川 恵美, 嶋田 総太郎, 中井 昭夫, 森岡 周
理学療法学 46(Suppl.1) P-4 2019年8月
<p>【はじめに】運動の不器用さを主症状とする発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)では,視覚-運動統合が困難であり(Nobusako,2018),運動において視覚依存となりやすいこと(Biancotto,2011)が明らかにされている.確率共鳴(Stochastic Reasonance:SR)は,身体に感覚閾値未満のランダムな周波数ノイズを加えることにより,感覚入力や運動機能が改善する現象である(McDonnell & Abbott,2009).本研究では,DCD児一例に対してSRを付与し,その効果を調べた.</p><p>【方法】対象は,DCDの診断を有する男児(10歳,右利き)であった.ベースライン測定として,運動機能をDCD Questionnaire(DCDQ)とMovement-ABC2(M-ABC2),自閉症スペクトラム傾向をSocial Communication Questionnaire(SCQ),注意欠陥多動性傾向をADHD-Rating Scale-IV(ADHD-RS),抑うつ傾向をバールソン児童用抑うつ性尺度(DSRS-C)にて測定した.DCDQは29点,M-ABC2のPercentileは,微細運動機能が63,粗大運動機能とバランス機能が5,総合で9であった.SCQは9点,ADHD-RSのPercentileは,不注意が88,多動性-衝動性が84,合計で87,DSRS-Cは3点であった.SRの効果を調査するために,SRあり条件(SR(+))となし条件(SR(-))におけるM-ABC2の微細運動機能テスト,映像遅延検出課題,時間順序判断課題を実施した.SRは両手首に貼付した振動アクチュエーター(Sprinter α,日本電産セイミツ)によって提供された.映像遅延検出課題で測定される遅延検出閾値と遅延検出確率曲線の勾配を,視覚-運動統合機能の指標とした.視覚刺激と触覚刺激の時間順序判断課題の成績を,視覚依存傾向の指標とした.</p><p>【結果】SR(-)における微細運動機能テストの結果は,63percentileであったが,SR(+)においては,95percentileと向上を認めた.遅延検出閾値と確率曲線の勾配は,SR(-)(272.9msec,0.03)よりも,SR(+)(219.4msec,0.05)において,それぞれ短縮・増加し,SR(+)において視覚-運動統合機能が向上した.時間順序判断課題の視覚刺激と触覚刺激の同期条件において「視覚刺激が早い」と回答する割合は,SR(-)では90%であったが,SR(+)においては50%となり,SR(+)において視覚依存傾向が減少した.</p><p>【考察】SRの付与は,視覚-運動統合を促進し,視覚依存傾向を減少し,即時的に運動機能を向上することが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,所属施設の研究倫理委員会で承認された後に,ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報の管理には十分配慮して実施した.対象児とその保護者には,事前に本研究の目的,方法,参加期間,いつでも参加を撤回できること,不利益がないこと,プライバシーの保護,学会・論文における公表について,文書による説明を行い,署名による同意を得た.</p>