山崎 真之
文化人類学 85(1) 56-72 2020年 査読有り
<p>小笠原諸島では、1968年の日本返還以降の再建の手法として観光業が活用され、その立地条件を巧みに利用したエコツーリズムが1980年代以降に取り入れられてきた。今日では2011年に世界自然遺産に登録されたことにより、さらに多くの観光客を集めている。本稿の目的は、観光地における歓待研究として、小笠原諸島における非島民の移住を事例に、商業的歓待と社会的歓待がいかに関係しているのかを明らかにすることである。小笠原諸島では、移住者のすべてが住み続けるわけではないことから、新たな移住者は欧米系島民とも旧島民とも新島民とも異なる存在として、つまり小笠原諸島から去ることが予見される存在として友好的に迎えられている。本稿の事例からは、このような移住者の友好的な迎え入れが、島民ごとに異なる迎え入れ方の原理が互いに絡みあうことによって可能となることが明らかになった。結論として、観光地におけるよそ者の歓待を考えるための視点として、商業的歓待と社会的歓待の部分的重なりという先行研究の視点は十分ではなく、むしろ現地社会の歴史と成員の多様性に基づく複数の歓待原理の絡み合いという視点が有効であると論じる。</p>