廣澤 春任, 川口 則幸, 山本 善一, 佐川 一美, 増田 裕一, 小林 秀行, 村田 泰宏, 平林 久, 宮地 竹史, 加藤 隆二, 市川 勉, 山田 三男, 藤沢 健太, 井上 浩三郎, 市川 満, 大橋 清一, 中溝 幸伸, 松本 操一, 佐藤 巧
宇宙科学研究所報告 2001年3月 宇宙航空研究開発機構
科学衛星「はるか」(打ち上げ前の名称MUSES-B)のために開発した位相基準信号伝送システムに関して,臼田局システムを中心に述べている.位相基準信号の伝送 (phase transfer) は位相安定度の高い標準周波数信号を地上局から衛星へ電波によって送るもので,スペースVLBI(超長基線干渉計)を成立させるために必要な基本技術の一つである.「はるか」では,電離層の影響を配慮して,アップリンクの周波数を15.3GHz,ダウンリンクの周波数を14.2GHzとし,臼田宇宙空間観測所に,次のようなシステムを形成した.(1)水素メーザ原子周波数標準器を源発信器として,地上局から,衛星における受信周波数が丁度15.3GHzになるように,衛星の軌道運動によるドップラー周波数シフトを補正して送信し,(2)衛星上の位相同期受信機出力からコヒーレントに生成された周波数14.2GHzのダウンリンク送出波を,地上局において受信,(3)その受信信号から,往復(two-way) ループの位相と,往復のドップラー周波数シフトを計測する.システムの設計・製作に当たっては,高位相安定度達成のために,機器設計,回路構成,温度安定度などに大きな注意を払った.地上系の折り返し試験を衛星シミュレータを用いて行い,製作したシステムが目標とした位相安定度特性を満たしていることを確認した.「はるか」打ち上げ後,地上-衛星-地上のループにおいて,システムの機能と性能の確認を行った.以後,本システムは「はるか」によるスペースVLBI観測(VSOP観測)において,その役割を十分に果たしてきている.