秋山 秀一
奈良大学紀要 (34) 163-175 2006年3月
本稿では、産業集積における企業行動を探るため、東大阪に立地するアパレル関連企業の事例分析を試みた。繊維業界は、主に消費地に立地するアパレル企業を中心に、流通段階の異なる複数の企業が市場リスクを分担し合う取引分業関係を特徴としている。これに対して、近年、生産から販売までを一貫して管理し効率性を追求するいわゆるSCM(サプライチェーン・マネジメント)を導入する企業が注目されている。また他方で、より特定の顧客層を対象にした業態も登場しつつあり、少なくともその戦略には大きく2つの方向性があると考えられる。東大阪市のユーピースポーツ株式会社は、自社ブランドの再構築事業に取り組む中で、従来の特定の顧客層を対象にした関係性を重視した取引やそこで蓄積されたノウハウが、目標とする効率性を重視したビジネスへのシフトを図る上での障壁となっている。同社がどちらの戦略を選択するにせよ、自社ブランド(商品開発機能)や直営小売店(直接販売機能)といったより市場に近い機能が重要な役割を果たすことになる。産業集積にとっても今後これらの機能を有する企業の存在が重要であることが考えられるが、その点も含めさらなる検討が必要である。