紀平 知樹, キヒラ トモキ, Kihira Tomoki
待兼山論叢, 32 55-68, Dec, 1998 Peer-reviewed
目下看護や医療などで議論されているケアについて、シェーラーの共感論に基づき考察した。シェーラーは共感論を自他の区別を前提とした上で、フッサールのような他者構成論とは異なる、感情の理論として展開している。彼によれば人格は対象化不可能であり、ただ共感を通してのみ与えられるという。しかしその共感を導くのは愛であり、それこそが初めて共感を可能にするのである。価値創造的な愛は、他者のより高い価値を目指して進む。しかし人格は対象化不可能であるがゆえに、愛は他者と自己とを同一化することはない。このように自他の距離を保ち、他者を知り、その上で他者を高めることこそケアに求められるものであり、そのような意味でシェーラーの共感論はケアの理論であるということを論じた。