栗林 慶, 小田 宏信, 小金澤 孝昭, 青野 壽彦
経済地理学年報 70(3) 178-202 2024年9月30日
本稿は,山梨県都留市における織物業の衰退過程の分析から,そのような地域経済の転換が図られたプロセスについて明らかにすることを目的とし,特に,都留市織物業の衰退を決定づけた二度の織機共同廃棄事業の詳細を検討することによって分析を試みた.その結果,機業場の全体分布図では,周辺山間部の小集積が解消されて,谷村地区を中心とする市街地に収斂し,やがて中心部でも集積が解消されていく様子がみてとれた.さらに生産構造を詳細に分析すると,まずは市内周辺の末端の階層のウール着尺地の賃機で淘汰が始まり,伝統織物の狭域的な生産体系が形成された市内中心部で相対的に根強さをみせたものの,やがて縮小を余儀なくされたというプロセスが鮮明になった.伝統織物の場合,縮小のプロセスは末端から淘汰されるという単純なものではなく,親機や自機,もしくは上位階層の賃機が自らの織機を削減するか生産自体を取りやめて,賃機への依存を強めていったという側面も看取できた.すなわち,共同廃棄事業にあたって政府が当初方向づけたような有力な経営体への生産の集中による競争力の強化には至らず,都留市の場合には,「しなやかに」全体的な生産を縮小するプロセスであったのではないかと理解できる.